破壊された東側の壁があったところを見れば、ガイアが使い魔の悪魔・フェイと共に、数千の敵と戦っていた。しかし、ガイアが魔力を制御し、本来の武器ではなく剣で戦うという今の状態で
破壊され、限界があるだろう。──魔物が放った魔法が、生徒を傷付けていく。飛び交う閃光、散り行くのは赤い血。鉄臭い臭いが強まっていく。ダンスホールはあっという間に戦場と化していた。一つ、幸いなことは魔物が下級ばかりであることだ。学生の実力でも敵わない相手ではない。サキカやガイアが全力で倒さなければならない敵ではないのだ。彼らが冷静になれば、十分敵うはずの相手だ。しかし、数が数だ。サキカが出ていき全力で戦えば、簡単にこの場をおさめることが可能だが、そういうわけにもいかない。ここで正体がばれてしまえば、もう学園に通うことができなくなってしまう。──学園に通うことは、サキカの夢であり、今ではかけがえのない日常の一部だ。戦うべきだとわかっている。しかし、学園に通えなくなるかもしれないという可能性が、サキカの行動をおさえつけてるのだ。先ほどその思考によって酷く後悔したことを忘れたわけではない。しかし、身体が動かないのである。──今感じている感情は恐怖だ。魔物に囲まれているからではない。この日常が壊れるかもしれないということに対しての恐怖なのだ。 先ほどは強く唇を噛み、まだかまだかとギルド隊員が来るのを待つが、一向に来る気配がない。サキカが焦りはじめたころ、ステラから念話が入った。『サキカ!』『ギルド隊員は……!?』サキカは即座に聞き返す。だが、ステラから返ってきた答えに、サキカの顔色を一変させた。『それがSランク以上の者が皆出払っているのよ。私も今、任務中で……』ギルドマスターが自ら任務を受けている……?本来ならば有り得ない状況だ。ギルドマスターというのは基本的にギルド本部に身を置き、主に書類仕事をしている。ギルドマスター自らが任務を請け負うことなど、余程のことがない限りはまず有り得ない事態である。.