「会えるさ、きっと」冬也の力強い瞳が、サキカを励ましてくれる。――時間は少ない。皆が起き出して、朝食の時間が来る前に、宿へと戻らなければならない。「
暗瘡針 こう」サキカは、冬也の前に立ち、自らの意思で歩き出した。村までは、あまり時間はかからなかった。家というよりかは小屋と言った方が適切であろうあの魔方陣の到着地点がある建物は、村からはそう離れた場所にあるわけではないようだ。しかし、建物から出て数歩歩いたところで、透明な何かをすり抜けたような感覚があった。それは、巧妙にもサキカにすら感知させないほどに上手く魔力が隠蔽された結界であった。否、感知しようと思えば、できたのかもしれない。だが、結界特有の透明な何かがそこにあるという違和感のような希薄な存在感ですら、あの結界は感じ取らせなかったのだ。抜けた時に感じ取った結界の効果は、人避けと獣避けだった。これがあったため、あの建物は誰に見付かることもなく、魔物に壊されることもなく、あの古い建物は建っていられるのだ。誰が張ったものなのか非常に気になったが、今は目前にある煉稀との再会のことを考えるべきである。――村は相変わらずであった。特に潤っているわけでもなく、別段貧しいわけでもないその村は、変わらずに存在していた。ところどころ家が建て直されていたり、取り壊されたり増えていたりはしているが、自分の記憶にある村の姿と、大差はなかった。村の共同の畑の広さも変わらず、菜の花が黄色い可憐な花をつけており、瑞々しいパセリやセロリが葉を揺らしている。「懐かしい、な」記憶にあるままの姿の村。愛着は感じられないが、懐かしさは感じられた。.