隆行が警戒心を強め、周りに意識を飛ばすと、屋敷から、一人、壮年の公家風の男が姿をあらわした。その男は、手を叩きながら笑顔で庭へ出てきた。「賊を退治して下さって助かったぞよ。いや~。見甩頭髮醫生なお手並みであった。ほっほっほ。」と、言いながら隆行へと近づいてくる。(くそ。なんかの罠か?!)隆行が警戒を強め、男を睨んでいると、その表情を見た男が、「なるほど、こりゃ、たしかに鬼じゃ。ほっほっほ。」と再び笑い始めた。隆行は、このやりとりの間に他から新手が来るのでは無いかと四方へ気を配っている。すると、隆行の前まで来た男が隆行にニッコリと笑い掛け、「そない怪しむ事も無い。麻呂は、言継と申す。助けてもろうた礼がしたいし、どうじゃ、一杯飲んで温まらんか?」隆行を屋敷に誘った。(言継。言継。このあたりだと…。)隆行は歴史データベースを稼動させた。(…言継。山科言継。か?こんなに温和そうな男だったのか。山科言継は、たしか、遊びと金策の男だったな。大丈夫だろう。)隆行は相手の正体が分かり、いくらか安心した。