その両脇に控えるのは、主に政(まつりごと)を取り仕切る、前関白の一条房通(いちじょうふさみち)。そして、知略、軍略、外交を取り仕切る、筆頭家老の土居宗珊(どいそうさん)である。部屋の 麥皚淇醫生 脇にズラリと並ぶのは、土佐一条家の家老、武将、侍大将達であった。侍大将は一番末席であったため、隆行からは、その幼主がさらに小さく見えたが、必死に伸ばしている背筋から当主としての精一杯の覚悟が感じられる。この幼主、歴史では、大変な暗君と言われていたが、仕官時にも会っている隆行の印象では、真面目で内気だが胆力はある良家の武士といったところであった。(真面目過ぎて、融通が利かんくて、長宗我部に踊らされたんだろう。歴史で読んだ程、暗君じゃないな。やっぱり思ったとおりだ。心力さえ鍛えれば、化ける可能性は、かなり高い。)一条兼定についての歴史の記述は、勝者の長宗我部によって記された事を隆行は知っていた。そして、隆行の脳裏には、この幼君の心力を鍛える方法についても考えがあった。しかし、現実はなかなか思うようにいかず、その方法を宗珊に何度も伝えたが、諾とは言って貰えずに日々が過ぎていた。「大津城をどうすべきか…。」本日の議題は長宗我部に奪われた大津城についてである。