又爺は、静かにガラクタの中を漁り、鎖鎌を取り出すと、「…こやつは…息が持たん……。ワシ…一人…じゃったら……。出来の悪い奴…程…………っちゅう事か…。」何やら、ブツブツ一人言を言いな轉運公司ら、静かに船の進行を微調整し始める。その言葉がはっきり聞き取れないたっつんは、声を潜めて聞き返す。「又爺。どうしたんだ?」「ただ死ぬかもしれんっちゅうだけじゃ。危険な臭いがしよるからの。」この又爺の言葉に、たっつんの輪刀を持つ手が汗ばんできた。しかし、又爺に絶対の信頼を置いているたっつんは、心底で「又爺がいるから大丈夫だ」とも思っている。「そこの海峡を越えれば、村上水軍の海域じゃ。そこまで耐えるんじゃぞ。」又爺の言葉にたっつんが頷く。村上水軍。戦国時代、瀬戸内海賊として最も勇名を成した、能島村上家、来島村上家、因島村上家の三つの家から成る大海賊組織である。瀬戸内の交通を掌握し、通行料の徴収や水先案内人の派遣、海上警護等で、莫大な富を築き、海上王国を作り上げた。快速船に乗り、火桶、投げ松明、飛竜火、投げ焙烙などの火器兵器を駆使しての戦闘方法で、この頃の日本では、海上最強の名を欲しいままにしていた。