女子生徒はハルの声に後ろを振り返り、それから首を傾げた。｢そう、だ……。…そうですが。……何故ハスキメル皇子が私の名前を？｣俺の予想が正しければ、多分｢そうだけど、それが？｣とでも言中風復健動作うとしたのだろう彼女、ツァイは、相手の顔を見て敬語に変えた。まあ、それが普通か。｢ハル、知り合いか？｣｢いや、会うのは初めて｣ふうん、と生返事。となると、有名人らしい。ツァイは俺の言葉使いやら呼び方やらに目を瞠るが、賢明にも何も言わなかった。頭のいいやつなんだろうと、思う。今は何やら機嫌が悪そうだが。｢えっと、実は父が、｢彼ら｣が珍しく学校に通ってくれることになった、と嬉しそうにしてて、それで｣｢ああ…。そうでしたか｣ハルの父と言うと、この国の皇帝。最高権力者。そのトップが、｢彼ら｣と呼ぶ、そして学校に通うことを喜ぶ……？さっぱり思い浮かばないが、2人は納得したらしい。なんかズルい。何やら苦笑を浮かべるハルの肩を、ガシリと掴んだ。｢ハル、説明｣言うまで離さん、と、言外に力を込める。俺の笑顔と握力に何かを感じたのか、ハルは若干冷や汗を流した。自分のことじゃないためか、ツァイに目線で伺いを立てる。ツァイは少し逡巡したが、結局は頷いた。ハルは多少声を落として、種を明かす。｢彼女、獣人なんだよ｣説明は短く、簡潔だった。獣人。この世界には、魔物とも魔族とも違う、｢獣混じり｣とでも言える種族が居る、とは1週間の内に聞いた事項ではあった。なるほど、この気配がそれなわけか。｢獣人って学校来てなかったのか？｣｢へ？ああ、ほら、重んじる文化が違うから｣｢ほー。じゃあ、何で通う気になったんだ？｣これにはハルじゃなく、ツァイが答えてくれた。｢時代よ。私たちだって通ってみたいって意見が多数出たの。……というか、何でこんなこと初対面で説明しなきゃいけないわけ｣不機嫌度5割増し。睨むツァイに、苦笑して降参のポーズを取る。別にツァイの気分を害したかったわけじゃないので、素直に謝罪した。｢悪かった。他意はなかったんだよ｣｢他意があったら話してないわよ。まったく、視線とかうざったいったら｣どうやらツァイが獣人なのはそれなりに有名な事実らしい。特待生でもあることが、注目と好奇の視線に拍車を掛けているように見受けられた。
